近年盛んに行われている企業買収合併(Mergers and Acquisitions、M&A)では、巨額の利益を生み出し急成長している企業があります。
その一方で損失を招き債務超過に陥る企業も少なくありません。
M&Aなどの経営戦略を成功させるためには会計リテラシーを身につけ客観的指標をベースに企業の実態を捉えて経営判断に取り入れることが不可欠です。
M&Aの成功は適正価格を知る
M&Aの失敗を招く原因には、買収対象企業を過大評価し過ぎて高値で買ってしまった結果、巨額の損失を計上してしまうケースがあります。
買収価格は、その企業の純資産の時価評価に無形の技術力、ノウハウ、ブランドのようなのれん(Goodwill)をプレミアムとして上乗せしています。
それが多額すぎると将来それに見合うだけの利益を上げることができず経営を圧迫する可能性が伴います。
のれん(Goodwill)とは?
のれんには、自己創設ののれんと企業結合(M&A)によって取得されたのれんがあります。
自己創設ののれんは企業の成長により自律的に自然に蓄積されたもので貸借対照表(BS)には計上されません。
このようなオーガニックグロースではなく、M&Aで対価を支払い取得したのれんはBS上に計上されます。
時価評価の純資産と買収価格の差がのれんであり、時価評価の純資産よりも買収価格が少ない場合は負ののれん(Negative goodwill)となります。
対象企業の企業価値評価(Valuation) から相場を算出
M&Aにおいて買収対象企業の企業価値評価をする方法として、主にDCF法(Discounted cash flow)、類似企業比較法、市場株価基準法などがあげられます。
DCF法は、将来事業から生み出されることが期待されるキャッシュフローの見積額を投資リスクを反映した割引率で現在価値に割り引き事業価値を計ります。
それに非事業用資産の価値を加えて、有利子負債を控除すると企業価値(株主価値)を見積もることができます。
類似企業比較法は、評価対象に類似した業種、規模の上場企業の財務指標(利益、純資産、EBITDA)及び株価から対象企業の株主価値を算定する方法です。
日本会計基準とIFRS,USGAAPの、のれん処理の違いとメリット
日本基準ではのれんを20年以内の合理的な年数で定額法で償却します。
国際会計基準(IFRS)、米国会計基準(USGAAP)では償却(Amotization)されません。
最低年1回のれんを評価し減損テスト( Impairment test)が行われます。価値下落が認められる場合、減損損失が計上されます。
上場企業が日本基準からIFRSへ会計基準を変更した場合、のれん償却による計上がないことから、減損が出なければ決算書上では一見利益が増加したかのように表示されます。
M&Aで多額ののれんが発生する場合、利益を出しやすいIFRS、USGAAPを積極的に導入するメリットの一つです。
IFRSのれん減損処理が定期償却へ?
近年、IFRS適用企業で過去のM&Aの失敗により巨額の減損処理が相次いでいます。
のれんの会計処理が減損だけでは不十分だという認識が世界的に強まってきている現在、 国際会計基準審議会(International Accounting Standards Board、IASB) により、定期償却導入への是非が検討されています。
これについては議論が続いており今後のM&Aに大きな影響を与える可能性もあります。